しばらくの間、プノンペンで滞在することになったAさん。アパートを借りた翌日、電気製品を揃えたいというので地元の電気店に同行した。
10年前はエアコンだの洗濯機といったらリサイクルショップみたいな小汚い店で日本製の中古を買うのが常識だったが、今では過疎の田舎のコジマもどきみたいな店があちこちにあり、中流以上のカンボジア人は中古など見向きもしない。
さて、ズラリ陳列された商品を眺めていると、妙な商標が目に入った。「AKIRA」……アキラ? 思わず足を止め、暇つぶしに「これ日本製?」と訊ねると、店員は得意気に「イエス、サー」と言った。ウソばっかつきやがって……。
AKIRAはシンガポール(マレーシア?)系家電ブランド。どうでもいいことだが、AKIRAというのはアキハバラにちなんだ名前らしい。
ちょっと前までインチキ日本的イメージを利用しまくっていたが、最近ではAKIRAというブランド自体が東南アジア貧乏国全体に浸透してきた感がある。韓国製の三割、四割引という激安価格でエアコンから冷蔵庫、大画面液晶テレビにコンポに洗濯機に調理器具から電池まで、気が遠くなるラインナップを持っている。
支出をセーブしたがっていたAさんの目はAKIRA製品に釘付け。気持ちはわかる。扇風機ひとつとっても、AKIRAの製品は日本製ブランド(メイドインタイか中国)の1/3。
「扇風機なんて、どれ買っても一緒でしょ」
この日、Aさんは迷わずAKIRAの扇風機を買った。そして、帰って組み立ててみるとぶっ壊れていた。
翌日、不良品の扇風機を交換途中、別の店で卓上電気スタンドを購入しようとしたAさん。ボディーには”AKIRA”という刻印が……。昨日、AKIRAにしてやられたばかりのAさん。ここは別メーカーにしたかったものの、居並ぶスタンドはすべてAKIRA製。仕方なく一台買うと、店員は黄ばんだ展示品を袋に詰めだした。
「それじゃなくて、新品くれよ新品!」
叫ぶAさん。十分後、奥から面倒くさそうに新品を持ってきた店員。イヤな予感がしたAさんはチェックを要求。スイッチを入れると案の定、壊れていた。壊れてるじゃないか! と叫ぶと、店員は軽く舌打ち。
「新品はこれだけ。イヤなら黄ばんだ展示品を買ってください。一銭も値引きしませんけど」
たかが電気スタンドでグチグチ言うな……と言わんばかり。キレたAさんはふてくされた店員を振り切って店を出る。そして、昨日のコジマもどき店へ。流石に昨日の今日だけに不良品交換はあっさりOK。この日、Aさんは冷水器を購入した。
AKIRAだけは避けたいとうわごとのように繰り返していたが、在庫はAKIRAのみ。仕方なく購入。経過を書くのが面倒くさいので途中はしょって、持ち帰って電源を入れてみると、ささいな事ですがパネルのLEDランプが壊れていた。
ふつう、新品でLEDが点かなかったら即交換だが、二度続けて深刻な初期不良を掴まされると、動作に問題ないレベルの故障などさほど気にならなくなる。Aさんもしかり、LED如き、動けばどうでもいいといった風情で、明らかに忍耐強く成長していた。
交渉の最中、ひまにまかせて店内をうろうろしていたところ、薄暗い隅の方に「HATARI」ハタリと刻印された地味な扇風機が六台ほど並んでいるのを発見。こちらはお隣・タイランドの日本風・ハッタリメーカー。
今のところ、まだ扇風機程度しか作れないようだが、あと数年もすると、こいつらも液晶テレビやらMP3プレーヤーやら、出すんだろうな。みなさんもお気をつけください。









































