1971年、パキスタンから独立したバングラデシュの首都・ダッカは、人口密度世界一の国ということで、なんだか知らないけど人がたくさんいた。
道は小便臭く、乞食も沢山いた。道を歩いていると、変なオヤジが電話の交換機に受話器をつけて電話してるではないか。最初は電話局の人だと思っていたら、道を歩いているバングラデシュ人たちが眉をひそめながら、こんなことをささやいているではないか。
「ああ、またハッカーだよ。参ったなあ」
「警察はなにをしているんだ‥‥」
「あいつらのせいで電話代が高くなるばかりだ!」
そう、彼は電話局の人間でもなんでもなく、ただのハッカーだったのである。わたしはこそこそとデジカメで隠し撮りしながら、彼にインタビューを試みることにした。諸外国のハッカーにみられる排他的な秘密主義は微塵もなく、彼は電話のタダがけをしながらもにこやかに対応してくれた。
「ハロー」
「やあ、日本人かい?」
「そうです」
「バングラデシュへようこそ。日本じゃハッキングが流行ってるんだって?」
「いや、よくご存じで。ところで、なにをしてるんですか?」
「なにって、電話のタダがけに決まってるじゃないか。これが農作業に見えるかね?」
「いいえ」
「電話なんて、こうやればタダなのに、なんで皆カネを払うんだろうねえ」
「でも、皆がタダがけしたら、電話会社が困るでしょう」
「電話会社は儲けているんだからいいんだよ」
「警察は怖くないんですか?」
「へん。あんな犬コロ恐がってたらタダがけなんてできないさ」
「でも、ここはイスラム国家だから、見つかったら大変ですね」
「そうさ、タダがけして捕まったら腕と耳を斬り落とされてしまうよ」
「そりゃ大変だ」
「でもよ、右腕と右耳をそがれても、まだ左側が残ってるからな。ハハハ」
「大したもんですね。 あっ!犬コロが来ますよ!」
「おっと、ありがとう。じゃあまたな。今度日本にも電話するよ」
「さようなら、気をつけて!」
ハッカー氏の逃げ足は驚異的に速かった。後に残されたのはこじ開けられたPBXのみ‥‥。
なんでも彼は一週間に二回ほど、スリルのためにフリーキングを楽しんでいるという。それも自宅に電話が無いので、わざわざ町中のPBXまで出向いて(ダッカに公衆電話は無い。一台も)タダがけしているそうで、そのダイレクトな手法にはアメリカやヨーロッパのフリーカーたちも舌を巻いているという。うそですけど。

























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