とろける媚肉                            紅乱舞 (????????)     (一章)極上の女 「よう、待たせたな」  勇一は俺の隣に座るとラークを一本抜き出した。 「ブルマン」  マスターに声をかけ、ダンヒルをきらめかせて火を付ける。赤い 炎が勇一の顔を照らした。髪はぼさぼさで油気がない。 「珍しいな、お前が遅れて来るなんて」  俺はまじまじと勇一を見た。どことなく精気がなく、やつれた頬 には不精髭さえ見える。 「そうだな、まったく……」  勇一は小さく笑った。なぜか、自虐的な笑みに見えた。 「顔色が悪いぞ、どこか悪いんじゃないのか?」  不可解だった。いつもブランド物の洋服でびしっと決め、出掛け る前には30分も鏡に向かう伊達男だ。髭を剃り忘れるはずがない。 「疲れているだけさ」  勇一はまた、口元だけで笑った。 「それより、悪いけど今夜は一人で行ってくれないか」 「一人じゃなー、仕方ない、また来週にするか」 「いや、来週も駄目なんだ」 「なんだよっ」  俺は煮え切らない勇一の態度にむっとした。 「少しくらい疲れてるからってお前らしくないじゃないか」 「もう止めにしよう」  勇一は呟くように言った。 「俺はもうナンパは止めにすることにした」 「冗談だろう……本気か?」  俺と勇一は二年前に予備校で知合った。二人とも地方の企業の社 長の息子で、どちらも無類の女好き。妙に馬が合い、この二年間ろ くに勉強もせずに二人で女の尻ばかり追い回してきた。  勇一は社長の一人息子で、仕送りも使いきれないほど有るらしい。 青山のマンションに住み、BMWを乗り回していた。一方、三男の 俺は駒沢のアパートで、車はシビックとやや落ちる。  土曜の晩に六本木辺りをBMWで流して回ると、引っ掛かる女は いくらでもいた。ディスコに誘い、一汗かいてから勇一のマンショ ンに連込んでは抱きまくった。毎週毎週、とっ替えひっ替えやりま くったものだ。  この春、お互いに三流大学に潜り込んだが、乱行は修まるどころ か、スキー、テニス、サーフィンと手を広げ、益々ナンパに精を出 すようになっていた。勇一などは親にねだってBMWからポルシェ に乗り換えたほどだ。  今夜も二人でナンパに行く予定だった。 「いったいどうしたんだよ」  俺はまじまじと勇一を見た。 「お前からナンパを取ったら何が残るっ」 「女さ」  勇一はぼそりと言った。 「実はな、女が出来たんだ」 「気は確か?」  俺は自分の耳を疑った。 「つまらん冗談はやめてくれ」 「冗談なんかじゃじゃない。俺はその女に夢中のさ」 「馬鹿な事をっ言うな。女に縛られるのは御免だっていつも言って たじゃないかっ」 「知らなかったんだなー」  勇一はしまりのない顔で言った。 「俺は今まで、本物の女を知らなかったんだよ」 「本物の女?」 「おれ達も結構やりまくって来たよな。女子大生、女子高生、OL、 看護婦、人妻……。それから中学生もやったな、覚えてるだろう?」 「忘れるわけないだろう」  竹下通りで、埼玉から来た二人の中学生を引っ掛けた事があった。 一人はポニーテールで、もう一人はおかっぱ。どちらも可愛い娘だっ た。大人ぶってはいてもまだ子供で、洋服を買ってやるとほいほい 付いてきた。  ディスコで踊り、カクテルで酔わせてマンションに連込んだもの だ。  ベッドに押し倒すと流石に抵抗したが、構わずに洋服を剥ぎ取っ た。レイプそのもので、俺も勇一も興奮していた。  固い乳房を揉み、乳首を吸い、全身を舐め回した。泣き叫ぶ娘達 を押さえ付け、しなやかな腿をいっぱいに開かせると、幼いピンク の花弁が濡れていた。そこを丹念に舐めてやると、顔を真っ赤に染 めて喘ぎ声を洩らしたものだ。  勃起した男根を見せ付けると、娘達は怯え顔になった。構わずに 捻じ込むと苦痛にもがき、声すら上げられずに涙を流した。二人と も処女だったのだ。  痛いほどの処女肉のきつさに、俺は歯を食いしばって突き上げた。 隣で勇一も激しく動いていた。  一回目が終わると皆で風呂に入った。まだ出血も止まらぬ娘達の 全身にシャボンを付け、四人入り乱れてまさぐり合った。処女を奪 われたせいか二人は従順だった。泡だらけの男根を握らせると懸命 になって擦り、唇に押し付けると素直に咥えた。  相手を取り替えながら気の済むまでしゃぶらせ、風呂から出ると 再びベッドで抱いた。後から前から、上から下から、四つ這いにも させた。ふやけるほどやりまくり、最後には俺も勇一も男根が赤剥 けになってしまったほどだ。 「あれは最高だった」  いつの間にか俺の下半身は熱く火照っていた。 「思い出しただけでむずむずしてくるぜ」 「ふふ、悪くはなかった」  勇一はにやりと笑った。 「あの人妻はどうだ、覚えてるるだろ?」 「ああ、テニスクラブの、あれもよかったな、こってりとしていて」  テニスクラブで、やはり二人の人妻と知合った事があった。どち らも三十前後のなかなかの美人だった。亭主が海外に単身赴任して いるとかで、わざと挑発するような仕草をみせた。昼飯に誘い、面 白いビデオがあると持ち掛けると、喜んで付いてきた。  裏ビデオを30分も見ないうちに、人妻達は押し倒すまでもなく、 鼻息を荒くして向こうからのし掛かって来た。 「一回だけよっ」 「大人の遊びよっ」  と口々に喚きながら、俺達の男根を咥え込む姿は壮絶だった。よ ほど男に飢えていたのか、玉袋まで吸い込まんばかりの強烈なフェ ラチオだった。  俺達も負けじと女のパンティーを剥ぎ取り、大きな尻を抱えて脚 を開かせた。むっちりと脂の乗った太腿の奥で使い込まれた女の肉 がぱっくりと口を開き、蜜を滴らせていた。  目茶苦茶に舐め回し、舌を尖らせて差し入れてやると、女は堪え きれずに咥えた物を吐き出して跨がってきた。男根を握って肉壺に 導き、どっしりと尻を落とす。内部は焼けそうなほど熱く、ぬるぬ ると潤んでいた。  人妻の欲望は底抜けで、何度も何度も求めてきた。俺達が萎える と口や乳房を使って奮い立たせ、貪るように跨がってくるのだ。朝 までやり続け、何度搾り取られたか分からないほどだった。  大人の遊びと言った割りには、女達との関係は亭主が帰ってくる まで半年も続いた。 「熟女のテクニックには負けたぜ」  俺は二人の人妻の熟れた身体を思い出した。 「あそこも、ねっとりとしてて最高だったなー」 「たしかに、熟れた身体は悪くなかった」  勇一は気の無い口調で言った。 「あのアナル好きの看護婦は、覚えているか?」 「看護婦……ああ、あのマゾ女かっ」  その女とは六本木のスナックで知合った。白いブラウスと黒いタ イトスカートがすらりとした身体にフィットしていた。ショートカッ トの髪がシャープな顔立ちに良く似合っていた。  男にすっぽかされたのか、一人で水割りをぐいぐいやっていたの で、試しにカラオケのデュエットを申し込むと意外なほどあっさり 乗ってきた。一気飲みで攻めまくり、酔い潰してからいつものよう にタクシーでマンションに連れ込んだ。  半分眠っている女を裸に剥き上げて、俺達は顔を見合わせた。あ そこの毛がつるつるに剃り上げられていたのだ。  二人掛かりで全身をまさぐり始めると、女は目を覚ました。だが 抗いもせずにじっとしていた。俺達は腕によりを掛けて愛撫してやっ た。すまし顔の女を快感によがらせ、ひーひー喚かせる自信はあっ た。同じような状況は何度も経験が有り、初めは嫌がっている女で も最後は決まって快感に悶え、あそこをべたべたに濡らしてしがみ 付いてくるのだ。  しかし、この女は違った。一向に燃えてこないのだ。全身を愛撫 し、舐め回す俺達を見る冷ややかな瞳には、官能の欠片すら無かっ た。ひょっとしたら不感症かもしれないと思った。  どのくらい立ったろう、俺は女を陥落させるどころか、人形を愛 撫しているような無味乾燥な行為に疲れ果ててしまった。どうでも いいからさっさと欲望を処理して終わりにしたくなった。ところが、 ところがだ、業を煮やした勇一が腹立ち紛れにアナルに指を捻込ん だ途端、女の口から歓喜の声が迸った。それまでのすまし顔からは 想像も付かない、甲高く裏返った声だった。  にんまりとした勇一が標的をアナルに絞って舐めまくり、吸い上 げ、舌を尖らせて抉り込むと、女は身を捩った。形良い尻を振り立 て、両手首を合わせて縛ってくれと哀願した。マゾだったのだ。  女のハンドバッグにはなんとイチジク浣腸器が入っていた。せが まれるままに、裂けんばかりに押し広げたアナルにそれを注入して やると、女は羞恥と快感にに身を震わせ、花弁をべたべたに濡らし た。  初めての体験に、俺も勇一も異常なほどの高ぶりを覚えた。女の 両手を背中でぎっちりと縛り上げ、俺が四つ這いの尻を抱えると、 勇一は前に回ってそそり立つ肉根を突き出した。  女は不自由な体勢のまま夢中で目の前の物にむしゃぶり付いた。 深々と咥え込み、じゅるじゅると音を立てて吸い上げる。そんな様 子を見ながら俺は肉壺を狙って進めた。すると女の肉は驚くほどの 収縮をみせた。吸引器のように俺を迎え入れ、締め上げてくるのだ。 便意を堪えているだけあって、その締め付けは痛いほどの強烈さだっ た。  あまりのきつさに俺が昇り詰める。それを受けて女が全身を痙攣 させる。喉の奥まで咥え込まれ、勇一も我慢できずにぶちまける。  信じられないほどの快感に、俺達は場所を変えては口と肉壺を気 が済むまで蹂躙した。ところが、そんなのはまだ序の口だった。  便意を堪え切れなくなり、脂汗を流す女をトイレに担ぎ込むと、 女は排便シーンを見てくれとせがんだのだ。そして俺達の見守る前 で洋式便器に跨がり、鼻爆裂音を響かせながら鼻が曲がるほどの臭 いウンコをひり出した。端正な顔からは想像も付かないくらいの、 大量で臭いウンコだった。  風呂場で洗い清めてやると、今度は尻を振り立ててアナルセック スを求めてきた。四つ這いで尻を高々と掲げ、両手で尻たぶを割り 開いてみせる。丸々と張った尻肉の狭間で、ついさっきウンコをひ り出したとは思えないようなちんまりしたアナルがきゅっと窄まっ ていた。  微かに頬を上気させ、自分はアナルでないと感じない女なのだと 言う表情がなんとも淫らで官能的だった。  俺が面白半分に尻を抱え、勃起の先端を押し付けると、ちんまり したアナルは意外なほどの柔らかさでするりと迎え入れた。女の肉 壺とは一味違う、妙な圧迫感だった。。  初めての尻での快感に俺がぐいぐいと突き上げると、女も狂った ように身をくねらせた。勇一の物を握ってに前への挿入をねだる。  蹂躙するどころか、俺達はすっかり女に翻弄されていた。せがま れるまま二つの肉穴を貫き、突き立てる。女は俺達の間で揉みくちゃ になりながら立て続けに上り詰めた。呆れるほどヨガり狂い、最後 は白目を剥いて気を失った。 「あれは凄かったなー」  俺は女の尻肉の感触を思い出していた。 「あのアナルの窮屈さときたら、最高だったぜ」 「確かに、悪くはなかった」  勇一はつまらなそうに言った。 「それじゃあ、あの露出狂のOLはどうだ、忘れたか?」 「覚えてるさ」  野外で、それも人に見られるかも知れないという状況でないと興 奮しないというOLと何度か遊んだ事が有った。  真っ昼間、地下道の片隅や、公園のトイレの裏や、人通りの途絶 えた路地裏で慌ただしくスカートをまくり上げて交わる。立ったま ま片足を抱えて繋がり、人目を気にしながら慌ただしく上り詰める。 時には、勇一の運転するBMWの後席で、周りの車に見せ付けるよ うにして抱いた事もあった。 「あれはスリリングで良かったなー」  気忙しく、貪るようにして交わるセックスには、異様な快感があっ た。露出願望は、多かれ少なかれ誰にでも有るものだと思い知らさ れたものだ。 「ハワイで知合ったおしゃぶり好きのスチュワーデスは覚えている か?」 「もちろん。あの女は凄かったな〜」  口のでかい派手な顔立ちのスチュワーデスと遊んだ事があった。 フェラチオ好きで、咥え込んだらいつまででもしゃぶっている妙な 女だった。代わる代わる、何時間でも続けるのだ。テクニックも最 高で、俺達は女の口の中に何度放出したか分からない。 「あの尺八は絶品だったな……」  俺は女の舌のざらつきを思い出した。 「ふふ、あれはどうだ、Dカップの婦警さん」  勇一はからかうかのように俺を見た。 「婦警……ああ、あのデカパイの」  駐車違反の切符を切ろうとしたデカパイの婦警を、その場でナン パした事が有った。はち切れそうな乳房は見事なくらいで、パイズ リの心地よさは何ともいえないほどの気持ち良さだった。 「おっぱいでしごかせながら顔面シャワーを決めてやった時の女の 顔ったらなかったなー」 「モデルの女はどうだ? それからエレベーターガール、保母さん もいたしエアロビのインストラクターもいたっけなー。会員制のス ワッピングパーティーにも参加した事があったな」  勇一は次々に並べ立てた。 「ちょ、ちょっと待てよっ」  俺は堪り兼ねて遮った。 「いったい何だってんだ?」 「ん、ああ、済まん」  勇一はふっと息をついた。 「つまりだ、俺達はいままで結構色んな女とやって来ただろう」 「そうだな」 「その中でどのセックスが最高だった?」 「そう言われても困るが……」  俺には勇一が何を言いたいのかさっぱり分からなかった。 「中学生の処女も良かったし、こってりした人妻も良かったし、看 護婦のケツも最高だったし……」 「そうかな、本当にそう思うか?」  勇一は、意味有り気に言った。 「本当にあれが最高だったと思うのか?」 「どういう意味だ?」 「だから、どのくらい良かった?」 「どのくらいって、中学生の処女は痛いほど良かったし、人妻はと ろけるほど良かったし、看護婦のケツは……」 「ふふっ」  勇一は、にやりと笑った。 「所詮はその程度さ」  冷ややかに言う。 「何がその程度なんだ?」  俺は次第に苛立ってきた。 「言いたい事があるならはっきり言ったらどうだっ」 「だからさ、そんな最高の女でも一言で片付いてしまう。所詮はそ の程度の快感しか与えてくれないってことさ」  勇一はラークを咥えると、長々と吸い込み、ゆっくりと煙を吐き 出した。 「本当の快楽というのはあんなもんじゃない」  焦点の定まらない、惚けたような目付きになっていた。 「それこそ、身も心もとろけちまうような、気が変になって死んじ まうくらいの快楽を知ってしまえば、あんな女どもはただの豚さ」 「お前……何考えてるんだ?」  あまりにもいつもと違う勇一の様子に、俺は薄ら寒い物を覚えた。 「身も心もとろける? そんなのはエロ小説の中だけの絵空事だ。 薬でも使えば別かもしれないけどな」 「それはどうかな」  勇一は嘲笑を浮かべた。 「お前は今までのナンパで満足してるのか?」 「まあな。いい女がいっぱいいたじゃないか。外れもあったが、ま あまあ満足してるさ」 「まあまあか、そうだな、所詮はまあまあなんだよ」 「いい加減にしろよっ」  持って回ったねちっこい口調に、俺の苛々は頂点に達した。 「お前の言うことはさっぱり分からないっ」 「そんなに怒るなよ」  勇一は急に声を潜めた。 「お前だから話すが、俺はある女と知合ったんだ」 「さっき聞いたぜ。で、やったんだろ?」 「やったさ」 「それで、彼女が物凄い名器の持ち主だったとでも言うのか?」 「名器? 彼女が名器だってか?」  途端に勇一の相好が崩れた。 「ははっ、こいつはいいやっ」  大口を開けて笑う。 「そんなに、彼女そんなにいいのか?」  俺は思わず身を乗り出した。 「いいなんてもんじゃないっ」  勇一は嬉しくてたまらないといった顔で俺を見た。 「あまりの良さに身も心もとろけそうなくらいさ。とてもこの世の ものとは思えないほどの快楽だ。彼女の味を知ったら他の女とやる 気になんかならないね。処女の中学生も熟れた人妻も、女どころか ただの豚だぜ」 「そいつは凄いな……」  俺は勇一の顔色を窺った。 「もちろん紹介してくれるんだろう?」 「駄目だっ」  勇一は透かさず言った。 「彼女は、俺だけの女だ」 「それはないだろう……」  俺達はいつも、獲物は分け合ってきた。二人でナンパした女はも ちろんの事、お互いがモノにした女もそれぞれに回して二倍楽しん できた。決めたわけではないが暗黙の了解だったはずだ。 「俺はもうナンパは止める」  勇一はきっぱりと言い放った。 「使いたかったらポルシェも貸してやるから、俺の事は放っといて くれ」 「紹介くらいしてくれたっていいじゃないか」  俺は食い下がった。 「友達だろ? そんな冷たい事を言うなよ」  彼女を見てみたかった。筋金入りの女たらしの勇一がこれほど惚 れ込む女なら、相当の上玉に違いない。 「一目だけでもいいから、な、頼むよ」 「断るっ」  勇一はむっとして立ち上がった。ふらりとよろめき、カウンター にもたれ掛かる。 「どうした、大丈夫か?」 「ふふ、もう一週間もやり通しでね、ふらふらさ」  青白い顔に、なんともいえない満足気な笑みが浮かんでいた。 「一週間も?」 「ああ、彼女となら何度でもやれる。終わりがないみたいに昼も夜 もやり続けさ」 「ほ、本当かよ」 「悪いけど帰るぜ。彼女が待ってるんだ」   勇一は危なげな足取りで俺に背を向けた。ふらつきながら出て いく。その後ろ姿を、俺は茫然として見送った。      (二章) 淫らな響き  取り残された俺は、一人でソープランドに行った。勇一抜きでナ ンパに行く元気は無かったし、ポルシェならともかく、シビックで 巧いことやる自信もなかった。  ソープ嬢に全身を洗ってもらい、おしゃぶりをしてもらっている 間、俺は勇一の彼女の事ばかり考えていた。本当にそんな凄い女が いるのだろうか。どれほどの美人でも、どれほど素晴らしい身体で も、あの勇一が一人の女で満足するとは思えなかった。  身も心もとろけそうな、この世のものとは思えないほどの快楽…… そんなものが現実にあるのだろうか。  いつの間にか目の前のソープ嬢と、会った事もない彼女がオーバー ラップしていた。巧みなフェラチオに何度か果てそうになり、懸命 にこらえる。だが、スキンを装着され、跨がってきたソープ嬢の内 部に導かれると、あっという間に昇り詰めてしまった。  疲労と虚脱感だけが残った。身も心もとろけるような快楽とはほ ど遠い、事務的で味気ない絶頂だった。  アパートに戻っても眠れなかった。目を閉じると目蓋の裏に、ぼ んやりとした女の裸体が浮かんでくる。女はまるで白蛇のように勇 一に絡み付き、全身をくねらせて愛撫する。あまりの快感に勇一は 呻き、身を捩る。  身も心もとろけそうな、この世のものとは思えないほどの快楽……  勇一の言葉が頭の奥でこだまし、俺は我慢できずに己れの物をし ごいた。何度も何度もしごき立て、明け方まで寝付けなかった。  翌日、何もする気になれずアパートでごろごろして過ごした。勇 一と彼女の事が頭にこびり付いて離れない。今もあいつが彼女と絡 み合っていると思うと、いいようのない嫉妬に身を焼かれる思いだっ た。あいつ一人に独占させる訳にはいかない。俺にも権利が有るは ずだ。  一日中部屋でうじうじしていて、夜になるとソープランドに出掛 けた。そして、虚脱感に打ちのめされてアパートに戻った。  彼女の味を知ったら、とてもじゃないが他の女とやる気にはなら ないよ……。勇一に嘲笑われているような気がした。  次の日も、その次の日も俺はソープランドに通った。そしてやり 切れない思いで欲望を処理した。ソープ嬢が豚に見えた。勃起をしゃ ぶられると鳥肌が立ち、わざとらしい喘ぎ声を聞くと吐き気がした。 それでも通わずにはいられなかった。  そして一週間め、もう我慢出来なかった。こんな事を続けていた ら頭がおかしくなると思った。彼女を一目見ずにはいられなかった。  電気ショップ街の外れにある薄汚い専門店で、超小型のワイヤレ スマイクを手に入れる。値段は高いが高感度で、受信機を手持ちの FMラジカセに繋げるという代物だ。  ケーキを一箱買って勇一のマンションに向かう。  顔見知りの管理人に声を掛け、勇一が部屋に居るのを確かめる。 玄関のチャイムを押しても勇一は出てこなかった。俺は何度も押し 続けた。ガレージにはちゃんとポルシェが有った。絶対に中に居る はずだ。  うんざりするほど押し続け、指が痛くなった頃、ドアの内で人の 気配がした。音もなくドアが開き、勇一の顔が半分覗く。 「よう、開けてくれ」  俺は隙間から中を窺った。しかし女の姿は見えなかった。 「お前か……」  勇一は露骨に迷惑そうな顔をした。 「放っといてくれと言っただろうっ」 「ちぇ、冷たいなー」 「何の用だ」 「いや、この前ポルシェを貸してくれるって言っただろう」  俺は用意した台詞を口にした。 「ああ、好きなだけ使っていいよ」  勇一は下駄箱の上からキーを取った。 「ほら、精々ナンパに励んでくれ。じゃあな」  素っ気なくドアを閉じようとする。 「ちょ、ちょっと待てよっ」  俺は閉じ掛かったドアに足をこじ入れた。 「何だ、まだ何か欲しいのか」 「話が有るんだ、入れてくれないか」 「何の話だ?」 「ここじゃ話せない大事な話だ。な、入れてくれよっ」 「ちっ」勇一は不機嫌そうに舌打ちをすると、渋々ドアを開けた。  俺はずけずけと上がり込み、リビングに入った。女の姿は無い。 何か甘ったるい香りが鼻をくすぐった。香水などとは違う、なぜか とても懐かしい気のする香りだ。 「話ってのは何だ」  勇一は入り口で突っ立っていた。 「まあ座らないか」  俺はソファーに腰を降ろすと、ケーキの箱をテーブルに置いた。 「ケーキを買ってきたんだ。彼女も呼んで一緒に食おうぜ」  さり気なくベッドルームの方を窺う。 「話ってのは何だ?」  勇一は苛立たしげに俺の向かいに座った。先週会った時よりさら に痩せ、青白く水気の無い顔になっていた。 「お前痩せたなー、ちゃんと食ってるのか?」  わずか一週間でこれほど痩せるものだろうか。 「用がなければ帰ってくれないかっ」  勇一は声を荒くした。 「邪険にするなよ。今日来たのは、実はお前が心配だったからなん だ」 「俺が、心配だって?」 「ああ、お前おかしな事を言ってたろう、とろけるような快感とか、 この世のものとは思えないくらいの快楽とかなんとか……」 「おかしいか?」 「おかしいさ。そんなみのがあるはずがない」 「ふふっ、そう思うのはお前の勝手だ。別に信じてくれなくてもい いぜ」 「気を悪くするなよ、ひょっとしたらお前、薬をやってるんじゃな いのか?」 「クスリというと?」 「シャブとか、ヘロインとかさ。妙な女に引っ掛かったんじゃない かと心配になってさ」 「ふっ、そんな事を思ってたのかっ」  勇一は痩せた満面に笑みを浮かべた。 「分かった。そうまで言われちゃ仕方ない、会わせてやるよ彼女に」  立ち上がり、ドアの所でベッドルームに声を掛ける。 「おい、しのぶ、ちょっと来てくれないか」  一瞬の静寂の後、女の声が応えた。 「どなたか、いらしてるの?」  透明な、そのくせ妙に官能的な声だった。 「友達が来てるんだ。紅茶でも入れてくれよ」 「まあ、お友達……」  フローリングの床に微かな音を響かせて、女が入ってきた。ピン クのワンピースに身を包んだ、二十歳くらいの女だ。  俺は思わず立ち上がった。息を飲み、女に見惚れる。  卵形の顔は眩しいほどの白さで、背中まで届きそうな黒い髪がそ れを際立たせていた。二重目蓋の瞳は切れ長できらきら輝き、鼻梁 は細く高い。形良い唇はつやつやと紅色に光っている。  完璧と言っても過言ではないほどの美しさだ。 「初めまして、水上しのぶです」  女が清楚な仕草で会釈した。顔だけでなく、身のこなしも完璧に 美しかった。 「私の顔に何か付いてます?」  しのぶに言われ、俺は我に返った。 「い、いえ、あなたがあまりにも美しいからつい……」 「あら、お上手ですわね」  勇一が物凄い形相で俺を睨んだ。 「早く紅茶を入れてくれよっ」  しのぶをキッチンに追い立てる。そして噛み付きそうな勢いで言っ た。 「いいか、変な気を起こすなよ。紅茶を飲んだら帰ってくれ。ポル シェはずっと使っていいから二度と来ないでくれ」  紅茶を飲む間も、俺はしのぶから目を逸らせなかった。勇一が睨 んでいるのは分かっていたが、見ないではいられなかった。これほ ど美しい女は見たことがなかった。顔だけでなく、プロポーション の素晴らしさも服の上から充分に見て取れた。声も仕草も、申し分 ない。まさに美の女神といってもいい気がした。美という観念を物 質化したらしのぶになるのではないかと思えるほど、彼女は美その ものだった。  わざとゆっくり紅茶を飲み、途中で中座してトイレに立つ振りを し、ベッドルームとバスルームにワイヤレスマイクを仕掛けた。さ らに二人の目を盗んでリビングのソファーの下にも押し込む。 「いいか、もう来ないでくれよ」  玄関で勇一が念を押した。 「分かったよ。これは返すぜ」  俺はポルシェのキーを下駄箱の上に置いた。 「俺にはシビックがお似合いだ」 「そうだな、お前には……」  勇一は何か言い掛けた。が、そのまま言葉を飲み込んで静かにド アを閉じた。  マンションを出た俺は向かいの公園に行き、木陰にシビックを停 めた。  ワイヤレスマイクの受信機をラジカセに繋ぎヘッドホーンを耳に 当てる。 『色目を使うなよっ』  いきなり勇一の怒鳴り声が響いてきた。かなりの高感度だ。興信 所の私立探偵などが盗聴に使う本格的な商品だという触れ込みは、 どうやら誇張ではなかったようだ。  俺は受信機のアンテナを調整しながら、助手席に移ってシートを リクライニングさせた。ヘッドホーンに神経を集中させる。 『やいているのね、嬉しいわ』  しのぶの声は笑っていた。 『うるさいっ』 『ほほっ、さあ、いらっしゃい』 『やめてくれっ』 『やめてもいいの?』  衣擦れの音が聞こえる。 『ほら、もうこんなになってるじゃない』 『しのぶ、お前の身体は媚薬だ……男を狂わせる』 『狂わせてあげるわ』 『う、うう、口でしてくれ、お願いだっ』 『おほほっ、いいわよ』  声が途切れ、湿った音に変わった。ぴちゃぴちゃ、くちゃくちゃ、 ぺちょぺちょ……。あまりにも淫らな響きだ。 『う、うう……最高だ……』  勇一が喘いだ。 『もっと、もっととろけさせてくれ……』  勇一のこんな声を聞くのは初めてだった。俺と一緒に女を抱いて いても、滅多に喘ぎなど上げない男だった。  俺は耳に神経を集中させた。しのぶがあのつややかな唇で勇一の 男の物を咥えていると思うと、嫉妬で気が狂いそうだ。我慢出来ず に淫戯の音を聞きながら勃起を掴み出し、ぐいぐいしごき立てる。 『バスルームに行きましょう』  しのぶの声が響いた。 『ここじゃ駄目よ、これ以上は……ね』 『よし、行こう、早くっ』 『ええ、とろけさせてあげるわ』  二人の声が途切れ、しばらくして再び聞こえてきた。バスルーム に移ったらしく音が反響する。 『さあ、お願いだ、早くっ』  勇一の声は切羽詰まっていた。 『ほほほ、せっかちね』 『しのぶ、ああ……』  また湿った音が響き始めた。ぴちゃぴちゃ、くちょくちょん、ぺ ちょぺちょぺちょ……。 『おお……とろけそうだ』  二人は湯船に入ったらしく、水音が聞こえてきた。ばしゃばしゃ と激しく響く。 『とろけそうだ……素晴らしい、とろける……とろける……』  それきり、勇一の声が聞こえなくなった。そして水音だけが残っ た。ばしゃん、ちゃぷちゃぷん、ぱちゃぱちゃ、ぴちょん……。  湯船の中で絡み合う二人の姿を想像しながら、俺は勃起をしごき 立てて射精した。虚しい射精だった。  水音はいつまでも続いた。夕方になり、夜になっても止まらなかっ た。ヘッドホーンを付けたまま俺は眠り込んでしまった。  翌朝、空腹で目をさました俺は愕然とした。付けたままのヘッド ホーンから水音が聞こえていたのだ。一晩中やり続けててるという のだろうか? だが、男はそう何度も出来るものではない。  近くのコンビニで食料を買い込み、食ながら水音を聞き続けた。 昼になり、夕方になり、夜になった。しかし水音は止まなかった。 いつまでやり続けるのだろうか。  流石に疲れた俺はアパートに戻った。  翌朝公園に行き、さっそくヘッドホーンを付けた。すると、ちゃ ぽん……ちゃぽん……水音が聞こえた。だいぶ穏やかで断続的 になってはいるが、確かに水の音が聞こえる。 「あの野郎っ」  俺は逆上した。あの色気違いの色魔にこれ以上好き勝手にはさせ られない。しのぶはもともと俺にも半分権利があるはずだ。あいつ 一人に自由にはしておけない。  工具箱からスパナを取り出してマンションに向かう。あいつはも う充分にしのぶを味わったはずだ。今度は俺の番だ。たとえあいつ を殴り倒してでもしのぶを手に入れる積もりだった。  チャイムを押しても勇一は出て来なかった。俺は何度も押し続け た。出て来るまで押し続けるしかない。十分か、二十分か、三十分 か、長い時間が過ぎて、やがて内で人の気配がした。ドアが開き、 顔を出したのは意外にもしのぶだった。 「あら……いらっしゃい」  しのぶは困惑した顔で言った。 「彼に、用なの?」 「ゆ、勇一は?」  俺は緊張を隠せなかった。 「彼はいないの」  しのぶはぽつりと言った。 「居ない? そんなはずはない」 「でも……いないのよ」 「とにかく入れてくれ」  俺はしのぶを押し退けるようにして上がり込んだ。 「勇一、話があるんだ、出て来いよっ!」  リビングに勇一の姿は無かった。キッチンにも、ベッドルームに もいない。 「どこだっ、勇一、出てこいよっ」  トイレにもいない。 「彼はいないのよ」  バスルームの方からしのぶの声が聞こえた。 「どこに行ったんだ?」  バスルームを覗いた俺は息を飲んだ。タンクトップと短パンだけ のしのぶが湯船を洗っているのだ。パンツから伸びた太腿が眩しい ほど白く、目が眩みそうだ。 「彼はしばらく戻らないそうよ」  手を休めずにしのぶが言った。 「旅行に行くと言ってましたから」 「いつから?」 「昨日から……」 「昨日? そんなはずはない」  さっきまでこの湯船で絡み合っていたはずなのだ。 「えっ、なぜそう思うの?」 「なぜって、それは」 「彼に何の用なの?」  しのぶは俺に向き直った。 「私ももうここを出る積もりなんです」 「出るって、どこへ行くんだ?」 「分からない。あては無いけど彼がいないのに私がここにいる訳に はいかないから」  どことなく淋しげな口調だった。 「だったら、俺の所に来ないか」  俺は思い切って切り出した。 「小さなアパートだけど俺一人だから遠慮しなくていいぜ」 「あなたの所へ?」 「一目見たときから好きだった。ずっと君の事ばかり考えていた。 お願いだ、俺の所へ来てくれよ」  勇一を殴り倒してでも奪う積もりだったのだ、本当にいないのな ら好都合だ。もし断られたら、この場で力ずくで犯すだけの事だ。 「嬉しいわ」  しのぶは小さな声で言った。目が潤んでいた。 「でも、私は悪い女よ。きっとあなたを駄目にしてしまうわ」 「かまうもんか、君さえ来てくれたらどうなってもいい」  俺はしのぶの手を取った。 「さあ、行こうっ」  彼女の気が変わらないうちに早くここを出たかった。 「ちょっと待って、直ぐに済むから」  しのぶはやんわりと俺をバスルームから押し出した。 「これで終わりよ……」  湯船の栓を抜く。ゴボゴボっと水音が響いた。どこか悲しげな音 だった。 「それじゃ、連れてって下さる?」  しのぶは、ぞくっとするほど艶かしい目で俺を見上げた。     (三章) 甘い肌  しのぶの荷物は驚くほど少なかった。まさに身一つといったとこ ろだ。  俺はシビックのハンドルを握りながら、これから始まるしのぶと の暮らしに思いを馳せていた。しのぶから漂う甘い香りが鼻を擽り、 期待に胸が膨らむ。  とろけるような、この世のものとは思えないような快楽の日々が 始まるのだ。考えるだけで身体が熱く火照った。  アパートに着くと、そんな俺を焦らすかのようにしのぶはバスルー ムに直行した。 「お風呂の汚れだけは我慢できないの」  一人で風呂掃除を始めてしまった。  俺はそんな彼女を呆れながらぼんやり眺めていた。しゃがみ込ん で湯船を磨く下半身が艶かしい。太腿の後がかなり際どい辺りまで 覗き込める。どうやらパンティーは付けていないらしく、くねくね と動く尻が俺を誘っているように見えた。 「そんな事後にしろよ」  俺はもう限界だった。 「いいだろ」  後から抱き締めるとしのぶは小さく嫌々をした。柔らかい身体だ。 骨がまったく感じられない。 「ほほ、せっかちね」  しのぶは俺の腕からするりと逃れた。 「直ぐに行くからベッドで待っていて」 「分かった。早くしてくれよっ」  俺はベッドルームを手早く片付けた。シーツを替え、ごろりと横 になる。いよいよしのぶを抱けるのだ。  それにしても上手くいったものだ。勇一との一悶着を覚悟してい たのに、こんなにあっさりと事が運ぶとは思わなかった。  しばらくするとしのぶが入ってきた。後ろ手にドアを閉め、微か に躊躇する。そして俺の目の前でゆっくりとTシャツに手を掛けた。 焦らすように少しずつまくり上げていく。  形良く突き出した乳房がぷるんと揺れた。頂点で桜色の乳首が一 緒に揺れる。綺麗な乳房だ。  しのぶは脱ぎ捨てたTシャツを優雅な仕草で投げてよこした。そ して短パンに手を掛ける。  俺はTシャツの香りを楽しみながら彼女の裸体を見守った。無駄 な贅肉は一切無い、完璧に美そのものの身体だ。 「目が血走ってるわよ」  しのぶは喉の奥で笑った。それでも恥ずかしいのか、頬を微かに 染めている。 「いいから、早くそれも取って」  促すと、短パンを徐々に降ろしていった。下腹の茂みが覗く。淡 い、消えそうなくらいの陰りだ。 「そんなに見ないで……」  しのぶは両手で前を隠した。 「恥ずかしいわ」  照れ臭そうに横を向く。どこから見ても素晴らしい身体だ。腰の 括れも尻の張りも申し分ない。たっぷりとした太腿からすらしりし た膨ら脛、そして足首へと続く曲線は完璧な官能美を描きだしてい る。 「おいでよ」  俺も裸になった。 「早く来いったら」  手を取って引き寄せる。  しのぶはゆっくりと崩れ落ちてきた。瞳がぎらぎら輝いている。 甘い香りがいっそう濃厚さを増した。 「夢みたいだよ」  俺はしのぶの唇を吸った。吸いながら舌を差し入れる。 「ああ……」  喘ぎながらしのぶも舌を絡めて来た。その瞬間、絡められた舌先 から背筋まで焼き付きそうな刺激が走り抜けた。 「あうっ」  俺は思わず舌を引き抜いた。 「ほほっ、お気に召して?」  しのぶは笑った。 「今のは、今のはいったい……」  何が起こったのか分からない。 「私の身体は普通じゃないの」  しのぶは囁くように言った。 「私は、男をとろけさす特別な女……」 「媚薬だ……」  俺は再びしのぶの唇を吸った。恐る恐る舌を差し入れると、ねっ とりした舌が絡み付いて来た。とろりとした唾液が俺の舌に染み込 んでくる。 「あぅ、うう……」  俺は呻いた。むせ返りそうな甘い香りと共に、甘美な刺激が背筋 を走る。  しのぶの舌が口に入ってきた。軟体動物のように蠢き、とろりとろ りと掻き回す。快感が腰を這い降り、下半身を熱く痺れさす。男の 物はすでに痛いほど勃起していた。  じっとしていられずに腰を捩ると、しのぶは顔を上げた。 「媚薬……そうね、私の身体は男を駄目にする。あなたもきっとそ うなるわ」 「いいよ、とろけさせてくれ」 「……勇一さんに私の事を何か聞いたの?」  しのぶが急に真顔になった。 「聞いたよ。君は最高だと言っていた。身も心もとろけそうだとも 言っていた。この世のものとは思えないって自慢してたよ。俺も、 俺もとろけさせてくれ」 「そう、彼がそんな事を……」  しのぶは心なしか表情を曇らせた。 「いいわ、あなたがその積もりなら手間が省けるわね。とろけさせ て上げるから、私のすべてを愛して」  顔を伏せると、俺の喉に吸い付いた。 「あうっ」  俺は仰け反った。喉元に苦痛にも似た快感が広がったのだ。 「じっとしていて」  ゆっくりと、じゃれ付くような舌の動きが胸元を這い回り、乳首 に達する。強烈な刺激が脳天まで突き抜ける。 「ああっ」  俺は堪らずに両手でしのぶの髪を掻き毟った。 「もっと、もっと下をっ」  腰を振って催促する。 「駄目よ、あなたはじっとしているの」  しのぶは俺をからかうかのように脇腹を舐め、腰骨に吸い付く。 舐められる度に刺激が走り、快感が全身を駆け巡る。俺の男の物は 破裂しそうな勢いで怒り立った。 「あぅっ、ああ……しのぶ、お願いだ」  強烈な刺激に耐えながら、俺はひたすら待った。 「ほほっ、凄いわあなたのコレ」  しのぶの唇がやっと下腹まで辿り着いた。 「石みたいに固い。それに熱いわ」  啄ばむように先端をそっと包み込む。 「あっ、あぁっ」  俺は呻いた。焼けそうな、凄まじい刺激に背骨が燃え上がりそう な気さえする。 「ふふっ、元気だわあなた」  しのぶはずるりと咥え込んだ。唇をすぼめ、一気に喉の奥まで迎 え入れる。 「ぐ、ぐあっ、あっ、あっ、あ……」  俺は堪らずにしのぶの頭を抱え込んだ。  深々と飲み込まれ、唾液が男根に染み込んで来るのが分かった。 とろけそうな甘美感に目の前が真っ赤に染まる。  咥えたまま、ゆっくりとしのぶが頭を上下に動かした。口の粘膜 が男の物を擦り上げる。 「もう、もう駄目だ……」  耐え切れず、俺は腰を迫り上げた。両腕に抱えたしのぶの頭を抱 き締めてあっという間に上り詰める。  しのぶは飲んだ。喉を鳴らして飲み下す。 「おいしいわ」  顔を上げ、上目遣いに俺を見た。長い髪の間から妖艶な笑みが覗 く。 「もっと頂戴」  再び男根に顔を伏せると、舌先で尿道を擽り始めた。 「むう……」  俺は呻いた。出したばかりだというのに萎えるどころか、勃起は ますます反り返った。 「スペシャルテクニックをみせてあげるわ」  尖らせた舌先が尿道をちろちろと探る。そしてすっと入り込んだ。 「くぅ、な、何を……」  俺は腰を捩った。信じられない事だが、しのぶの尖らせた舌先が 尿道深く入り込んで来たのだ。じわじわと侵入してくる。 「凄いっ、凄いよ……」  微かに痛みをともなった快感が、腰から背筋に這い上って来る。 今までに一度も経験した事の無い刺激だった。  音が聞こえ始めた。ぴちょ、ぴちょ、ぴちょ……。例のあの湿っ た音だ。  先端を舐めながらしのぶは唇をすぼめ、再び咥え込んだ。深々と 飲込み、根元まで納める。そしてそのまま艶やかな唇で袋までをも 挟み込む。 「ああ……こんな凄いフェラチオは初めてだよ」  男根が、袋が、どろどろにとろけ出すような不思議な錯覚を覚え、 俺はじっとしていられなかった。 「君のも舐めさせてくれ」  長々とベッドに横たわってしのぶの脚を引き寄せる。腿を開かせ、 顔を跨がせると、目の前に女の部分が余すところなく剥出しになっ た。花弁は綺麗なピンク色だ。しっとりと濡れ、慎ましく綻んでい る様は実に清楚な佇まいだ。  舌を伸ばし、花弁の真ん中を突いた俺は、呻いた。舌の先から焼 けそうな味わいが広がったのだ。次の瞬間、花弁がぱっくりと開き、 蜜が溢れ出した。とろりとろりと流れ落ち、俺の舌にまとわり付く。 甘酸っぱくねっとりしたそれは、あっという間に口いっぱいに溢れ た。  唾液の比ではなかった。舌も口もどろどろにとろけそうな強烈な 刺激だ。  俺は夢中で飲んだ。溢れる蜜を懸命に啜り、飲み下す。するとと ろけそうな甘美感が全身に広がっていった。  啜っても啜っても溢れ出てくる蜜を、花弁に口を付け、一滴残ら ず味わい尽くす。肉の壷を探って、深々と舌を差し入れる。それに あわせてしのぶは頭を上下に動かし、信じられないほどの刺激を与 えてくれる。 「しのぶ、もう我慢できないっ、君の中に入れさせてくれっ」  俺は腰を振り立てた。 「ここじゃ駄目よ……」  しのぶが振り向いた。綺麗な顔が真っ赤に上気して、口の周りは べとべとに濡れ光っていた。 「ここから先はバスルームで……ね」  ベッドから降りると、俺の手を取って導く。  湯船にはなぜか湯は入っていなかった。 「さあ入りましょう」  促されるまま俺は湯船に入って胡坐をかいた。 「この中でやるのかい?」 「そうよ」  しのぶも湯船に入ってきた。 「これからあなたに、この世で最高の快楽を味わわせてあげる」  俺の腰を跨ぎ、勃起を握って女陰に導く。そしてゆっくりと尻を 落とした。ちりちりと焼けそうなほど熱い粘膜が俺をくるみ込む。 「ぐっ、ぐわっ!」  気が遠くなりそうな快感が下腹部から脳天まで突き抜けた。 「いいわ、ステキよ……」  しのぶが腰を動かす。女陰から蜜が流れ出し、滴り落ちるのが分 かった。 「凄いっ、とろけそうだよ」  俺は目の前で揺れる乳房にかぶり付いた。柔らかなそれを口一杯 に頬張り、しこった乳首を吸い立てる。 「感じるわ、乳首……」  しのぶがうっとりと目を閉じた。 「いきそう……私もとろけそうよ……」  掠れ声で喘ぎ、大きく上下に動く。滑らかな腰の動きは淫らその ものだ。その動きに合わせて女の肉がぎゅるぎゅると蠕動した。グ ビグビと収縮し、肉襞の一枚一枚が俺の物に張り付き、表皮を剥き 上げるかのように絡み付いてくる。まるでそれ自体か生きているか と思うほどの微妙な蠢きだった。 「なんて、なんて素晴らしいんだ……」  俺は堪らずに乳首を咬んだ。 「くそ、もう、もうイッちまうぜっ」 「いいわよイッて、私も一緒に……」  しのぶはさらに動きを早めた。両腕で俺の頭を抱えたまま大きく 身を反らせる。女の肉は俺を括り上げるかのように激しく収縮した。 「ああ、あーっ」  凄まじい快感に耐えかね、俺は一気に迸らせた。二度、三度、腰 を震わせて自分でも呆れるほど大量の精液をぶちまける。まさに夢 のような快感だった。  しのぶの中に挿入したまま、濃厚な余韻の時が過ぎていく。  しのぶはうっとりと目を閉じ、動きを止めている。だが、不思議 な事に余韻は静まるどころか益々高まり、男根がとろとろに溶けて いくような甘美な熱さに変わっていった。彼女の肉壺と一緒になっ てとろけ出しそうな、危うい快感だ。  あまりの心地よさに俺は下腹を覗き込んだ。そして信じられない 光景を見た。しのぶの花弁がぺったりと広がり、俺の腹に吸い付い ているのだ。ピンク色のそれはひくひく蠢きながら、みるみる広がっ ていく。 「ひっ、ひいぃーっ」  悲鳴を上げようとしたが声にはならなかった。 「じっとしていて……」  しのぶがしゃがれ声で言う。そしてすっと沈んだ。腰がどろりと 蕩けた。ねっとりとへばり付き、俺の腰をすっぽりと包み込んでい く。 「馬鹿なっ、こんな馬鹿なっ」  恐怖に全身の毛が逆立つ。 「やめろっ、やめてくれーっ」  しかしその一方では、想像を絶する陶酔感に呻かずにはいられな かった。 「これがこの世で最高の快楽よ」  しのぶはにたりと笑った。妖艶な、ぞくっとするほど凄い笑いだっ た。 「ああ……しのぶ……」  俺はなす術もなく呻くだけだった。  目の前でしのぶの腹が蕩けた。そして胸が蕩けた。手が、脚が、 どろどろに蕩けて俺にまとわり付いてくる。 「ああ……ああぁ……」  あまりの快感に気が遠くなりそうだ。気が付くと、ピンク色のゼ リー状になったしのぶに首から下をすっぽりと包み込まれていた。 「これがあなたの求めていた快楽なのよ」  尿道から粘液が入り込んで来るのが分かった。 「味わいなさい、この世で最高の快楽を」  肛門にも粘液が侵入してくる。 「命と引き替えにしても惜しくはないでしょう」  もはやしのぶは、首だけしか原型を止めていなかった。 「最高だ……こんなに、こんなにいいなんて……」  俺は与えられる快感に身を任せた。全身の毛穴という毛穴から粘 液が染み込んで来る。 「さあ、あなたもとろけるのよ」  顔だけのしのぶが唇を求めてきた。 「はやく、はやくとろけさせてくれっ」  俺も吸い返す。深々と彼女の舌を吸い込むと、口の中でソレがど ろりと蕩けた。続いて唇が、鼻が、そして顔が蕩けた。すっぽりと 俺の顔を包み込む。鼻から粘液が入り込んできた。耳にも、目にも 入ってくる。  凄まじい刺激と共に粘液はずるずると侵入してきた。快感の源が、 やがて脳にまで達したのが分かった。神経を刺激し、全身を快楽の 渦に巻き込んでいく。  視覚も聴覚も失われ、呼吸すら出来なかったが苦しくはなかった。  やがて俺の身体は少しずつ蕩け始めた。快感は益々深まっていく。  何と表現すればいいだろう? とろけるくらいの、この世のもの とは思えないほどの、天にも昇るほどの……いや、そんな生易しい ものではない。とても言葉では言い表わせない、甘美な陶酔感だっ た。  どれくらい過ぎただろう。三日か、五日か、一週間か……。 すでに俺の身体はどろどろに蕩けてしまったようだ。  少し前までは内蔵や骨の存在が意識できた。しかし、いまは何も 感じられない。  五感はすべて失われ、快楽だけが残っている。それがいつ果てる ともなく続いている。  自分がいまどんな姿になっているか想像も付かないが、俺は幸福 の絶頂にいる。湯船の中でどろどろになり、しのぶとぐちょぐちょ に混じり合いながら、この世で最高の快楽に浸っているのだ。  しのぶが何者か考えなかった訳ではない。妖怪か、エイリアンか、 ミュータントか……。いずれにせよ男の精気を吸い取って生きてい る化物である事は間違いない。だが、それもどうでもいいことだ。 今はただ、この快楽が少しでも長く続く事を願うだけだった。  やがて俺は死ぬのだろう。人間が液体のまま生き続けられるはず はない。いつかは精気を吸い尽くされ、ただの液体になって下水道 に流されるのだ。しかし後悔はしていない。  俺が死んだらしのぶは次の男を探しに行くのだろう。それもいい。 この、死にも優る快楽を一人でも多くの男に味わわせてやりたいも のだ。豚を千回抱くよりも、しのぶの与えてくれる快楽がどれほど 素晴らしい事か……。  ああ……また絶頂感が襲って来た。しのぶ、もっとだ、もっとう ねってくれ。  素晴らしい……とてもこの世のものとは思えない……ああ……。                           了 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  この小説はフィクションであり、登場人物などはすべて架空です。