路傍の味覚



 第一回「隆門小吃店」

 これまで、バックパッカーや一部の長期滞在者の間で愛用されていた定番の中華料理屋といえば、ストリート182と111の交差点にある「金竜」というオープンエアの店と相場が決まっていた。もしくは中央市場そばの北京菜館だろうか‥‥。

 金竜は値段が安く、安宿のキャピトルゲストハウスに近いこともあって、毎日毎日、日本人のみならず白人やカンボジア人の客も大勢入り、なかなかの繁盛を誇っていた。しかしながら、数カ月前にコックが変わってからは、客の残り物を再び料理しているのを見たとか、どの料理も同じ味がするだとか妙な噂がたち、それとともに、客の流れは周囲の小さな店へと流出しはじめた。その流れ先のひとつが、何を隠そう今回紹介する隆門小吃店である。場所は金竜のわずか四軒となりだ。
 この店、末端警官の標的になることを恐れてか、看板はあえて店の奥にしまいこみ、外からはテーブルが沢山並んでいることぐらいしか確認することができない。以前は客もほとんど入っていなかったことから、近所に住んでいる者すら、この店が食堂だと気ずかなかったほどの秘密主義ぶりであった。

 経営者は無口な中国人のおばさんである。彼女はクメール語も英語も全く話せず、すべてを中国語で押し通す。従ってこの店では中国語しか通じないので、そのつもりで覚悟して行ってほしい。ただ最近は、壁に妙な英訳のメニューが貼られるようにもなったが、もちろんこれも超適当。言っても勿論通じないので、指でもって指定する。

 メニューの料理には、すべてご飯と青菜のスープが付く。それで値段は驚きの1ドルポッキリである。味も良く(魚料理はときどきハズレるが)、量のほうも文句無いのだが、オーダーしてから出てくるまで30分以上は絶対に待たねばならないところが、唯一の欠点だろうか‥‥。これでは注文して待って食べ終わるまで最低一時間はかかってしまう。まさにメシを食うのもひと仕事である。
 まあ、ここに食いに来るような人々は、それほど日々のスケジュールに追われているわけでもないのだろうが、30分はやっぱり長い。ちなみに混雑してるときは45分待ちも常識で、灼熱の昼などは待っている間に食う以上のカロリーを使いかねない。

 さて、ここのお勧め料理は中国風茶碗蒸しと、揚げ魚の酢豚風あんかけなど。ただしどの料理を頼んでもハズレはまず無いのでご安心を。メニューは壁に書かれているものだけではなく、店の隅にちゃんとしたものが置いてあるので、こちらもあわせてチャレンジしてみてもらいたい。夕方から夜にかけては混雑しているが、昼は割合空いているのでねらい目である。



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