カンボジアねほりはほり



指輪職人に弟子入り(上)

 カンボジア人はワケのわからない装飾品が大好きだ。貨幣がまともに流通してなかった頃の名残りからか、いまだに銀行をいっさい信用せず、小銭が溜まると妙なアクセサリーにつぎ込んで、カネが無くなると安値で現金に換える。というライフスタイルを頑なに守る人が多い。
 そんなわけで今回は、一文無しになっても心配ないよう手に職をつけるため、市内バンケンコン市場の真横で金銀装飾品を専門に扱っている職人、フォーさんに頼み込んで一日弟子入りし、彼から指輪の作り方を学ぶことにした。

 若干33歳のフォーさんだが、数年前までは、あのモニク妃も買い物に来たという、セントラルマーケットそばにあるドゥシットホテル下の装飾品店で職人をしていた、この道15年のベテランである。しかしながら、オーナーの息子に女を一人紹介したことがオーナー夫人の耳に入り、息子に変な女を近づけた罰として、あわれ店を解雇されてしまうという、カンボジア人ならではの素晴らしいエピソードを持つ好人物だ。
 さあ無駄話は置いといて、まずはおおよそでいいから指輪の形を決めろという。店に置いてあるジュエリー雑誌を見ながら説明しても良いが、自分でスケッチした絵を見せると話が早い。模様や石がはめ込んであったりすると作るのが難しいということだが、今回は練習のため、二ドルで売っていた謎の石をはめてみようと思う。
 指輪の形が決まったら、さっそくバンケンコン市場の両替屋で銀の塊を購入する。カンボジアでは銀や金を計るとき、「チー」という単位を使うが、1チーは2.75グラムで1ドル弱。今回は3チーほど買って計一万リエルだった。

 フォーさんの店にもどり、袋から取り出した銀を土器の上に載せ、石鹸の切れ端のような薬物を少々加えて、フイゴ式の人力ガソリンバーナーで銀を溶かす。外気が40度近くあるというのに、なおかつバーナーの火力で熱せられ、狭い店内は暑いことこの上ない。そのうえ足は常にフイゴを動かしてなければならず、はっきり言ってかなりの重労働である。
 こうして銀から不純物を取り除いたら長方形の型に流し込んで冷やし、それをハンマーで叩きながら伸ばしてゆく。そして飽きるほどガンガン叩いて銀が冷えきったら、再びバーナーで熱して、また叩く、この作業を延々30分ほども繰り返す。
 30分経った頃には腕がビリビリとしびれ、言わずもかな汗はダラダラ。そのうえ足こぎバーナーの着火がやたら難しく、思いきり手の甲を燃やしてしまった。あっ熱い熱い熱いアチチチッ!。

 火傷しながらも銀をある程度細長くのばしきったら、次は自分の指のサイズにあわせ、金切りバサミを使って全体を菱形に切り取る。中心に石を埋め込むための印をつけ、あとは指の裏側へ行くにつれ細くしてゆくため、最初からそれにあわせて菱形に切り取ってしまうというわけだ。
 ‥‥とこれがやたら難しい。予想通り金切りバサミの手元は思いきり狂い、菱形にするつもりが、なんとまっ二つに切断してしまった。また最初っからやり直しかあ‥‥と、ガックリ落ち込んでいたら、見かねたフォーさんが怪しげな薬品とバーナーを使って、まっ二つになった銀を、いつの間にか元通りにくっつけてしまった。このおっさん、ナメていたがタダ者じゃないようだ‥‥(続く)。



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