カンボジアの暦から‥‥ 小味かおる



法衣をさしあげる「カタン」の行事

 カンボジア二大行事のひとつ、お盆が終わると、あちこちで「カタン」の行事が見られるようになる。旧暦アソッの月一日(新月一日、今年は9月22日)から約一ヶ月の間に行われる、雨期の間に袈裟がポロポロになってしまったお坊さんに法衣を差し上げる儀式だ。

 どうして「カタン」をするようになったのかについては本紙二号に記したが、今回は「カタン」のやりかたを、『クメールと音楽』から紹介しよう。

 カタンの行事は、アソッの月一日からカタックの月一日までの間ならいつでもよく、一つのお寺だけに対して行う点、献上物が袈裟の中でも位が高い腰巻(ズボン)、外衣(チポー)、肩掛け(ソンクデイ)の三種と決まっている点(全て揃わなくても良い)、雨安居三ヶ月を全うした僧侶だけが受け取る権利を持つ点など、通常の行事からは突出して重要である。

 最近はこの「カタン」の行事を通じて、通常以上の徳を積むということだけでなく、国家・地域に貢献するのが流行っている。たとえば、寺域内にある学校や病院、道路や橋などの建設をするため「カタン」への参加を呼びかけ集金するのだ。

 用意するものは、三種の袈裟を載せたお盆「トレイ・トム」ひとつ。最近では他の袈裟や托鉢用の鉢・傘・扇子・やかん・ろ過器・お茶・砂糖・ロウソク・線香・たばこ・マッチ・気付け薬なども載せる。それから「リエン」というお盆をふたつ。これは、二番目三番目の僧侶へ献上するもので、腰巻き一着、外衣一着、それから鉢をのぞいたトレイ・トムと同じものを載せる。それから「スラドック」というお盆。寺の僧侶全員に献上するもので、腰巻きと水浴び用の衣のセット、それにノートやボールペンなどの小物を載せる。

 カタンのスケジュールだが、一日目の午後、参加者は呼びかけ人の家かお寺で僧侶の話を聞く。このときピンピアという音楽が伴奏される。

 二日目の朝、カタン詣での行列は出発する。特別な行事であることと、楽しく行列するためにチャイヤムという音楽が奏でられ、さらにピンピアの音楽が追い打ちをかける。

 カタンの行列は、寺に着くと本堂を三周してから中に入る。お経を唱えた後「お召しの儀式」がある。

 最も修行を積んだ僧侶が「カタンは誰のもとへ届くべきか」と皆に告げる。これを受け取ることのできる僧は、五つの戒律を守り、なおかつ袈裟が不足している者とされる。選ばれた僧侶は、お盆を手に取り持ち上げ「私はいま、チェイボー(外衣)とソンクデイ(肩掛け)を受け取った。僧侶の皆、この恩恵を受けましょう」と告げ、他の僧侶たちが「同意する」と言うと、行事は終わる。

 トラックに鈴なりになって立ち乗る人、それはただの秋の遠足ではなく「カタン詣で」なのである。できるだけ遠くの貧しそうなお寺に献上するのがよいとされるので、遠足なのかもしれないが。

 足付のお盆の絵がある手紙が届いたら、それは「カタン」へのお誘い。まだまだ雨はバケツをひっくり返したように降っているが、暦の上では今年十月六日が雨安居(うあんご)明けである。(了)



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